【移住者インタビュー】高知県最古の酒蔵で、200年続く仕事に向き合う

  • 氏名 白方 幹大
  • 移住した年 2025年
  • 出身地 兵庫県
  • 世代 50代
  • 現在の職業 地域おこし協力隊 ※西岡酒造で日本酒製造
  • 移住前の職業 酒屋
  • 現在の居住地域 久礼地区
  • 西岡酒造 http://www.jyunpei.co.jp/

 

 

酒蔵のスケジュールは、すべて“お酒の発酵の都合”で決まる。

「発酵の変化を見逃さないように、日々出来上がりのお酒の味をイメージして動いているんです。」

白方幹大さんは、1781年創業の西岡酒造で地域おこし協力隊として働いている。杜氏のもとで仕込みに励む日々だ。

 

現存する酒蔵の中で高知県最古の酒蔵「西岡酒造」

 日本酒との出会いは、空手の師に連れられて通った数々のバーだった。美味しい食事のあと、酒を味わいながら語り合う、そんな時間がいつしか好きになり、酒そのものへの関心が深まっていった。
 40歳のとき、22年勤めた工業系企業を辞め、空手を通して出会った酒屋に転職。全国の銘酒を扱い、イベント運営から営業まで奔走した。やがて各地の造り手たちと出会う中で、その情熱と真摯な姿勢に心を打たれ、「自分も酒造りに関わりたい」と思うようになったという。

 転機になったのは、多忙を極めた日々の中で、ふと立ち寄った本屋で出会った「ロングトレイル」の雑誌だった。

久礼の好きな場所
お気に入りの場所、久礼八幡宮。ここを通過するロングトレイルの道もある

「山頂を目指す登山と違って、歩くも休むも自分次第。時間に縛られてた自分には、なんて自由な世界なんだと衝撃を受けました。」
 歩く旅を通して、都会では得られなかった人のあたたかさに触れ、「いつかは地方で暮らしたい」と思うようになった。

 酒屋時代から何度か訪れていた西岡酒造の杜氏・島村さんに声をかけられ、50歳で久礼へ移住。

西岡酒造前で撮影
西岡酒造前で新酒の仕込みの合間にお話を伺った

「情熱的な島村さんの人柄とお誘いが決め手でしたが、『久礼』という酒の不思議な包容力も大きいです。どんな食に合わせても、どの温度でも“旨い”と思わせる深い味わいがある。」
かつて酒屋として惚れ込んで扱っていた銘酒が、彼をこの地へ導いたのだ。

「17時に仕事が終わったら、風呂入ってご飯作って、お酒を飲んで、本を読んで寝る。それが心地いいです。」

 地元の名を冠した銘酒「久礼」。ゆるやかに時間が流れる海辺の町で、白方さんはストイックに酒に向き合う。緊張と穏やかさのあいだに、この町の一本が生まれている。

高知らしいカツオによく合う「辛口純米酒久礼」
高知らしいカツオによく合う「辛口純米 久礼」(真ん中)、同じ中土佐町内の山のお米を使った酒(右)、舞台となった漫画『土佐の一本釣り』の主人公の名前を配した純米酒(左)

 

インタビュー&写真&文章 鈴木弥也子