【移住者インタビュー】キャリアの延長にある、50代での移住という選択。

プロフィール

・氏名 五十嵐文雄
・移住した年 2024年(2017年から訪問)
・出身地 北海道
・世代 60代
・現在の職業 コンサルタント(リモートワーク)
・移住前の職業 コンサルタント
・現在の居住地域 矢井賀地区
・Instagram @yaiga.life

 

「週の半分はこの部屋でオンライン仕事。もう半分は、庭の手入れや図書館通い、観光協会の理事としての活動や、地域づくりに関わりながらゆっくり過ごしています。」

企業のデジタル化を支援するコンサルタントとして、30年以上、東京で働いてきた五十嵐文雄さん(62)。ロンドンに住んでいた時期もあるという経歴の持ち主だが、現在は高知県中土佐町の矢井賀という人口およそ100人の地区に暮らしている。ここでの日々は、”半分引退”のような、穏やかな時間だ

 

移住のきっかけは、東京での暮らしに対する違和感だった。東日本大震災を機に、都市の脆さを感じるようになり、自給自足で自立した地域で生活がしたいと思うようになったという。数年後に退職というタイミングで参加した、移住ツアーで出会ったのが、かつて漁師町として栄えたこの集落だった。

 

「矢井賀は、ほんと何にもないんですよ。コンビニもスーパーも銀行もない。でも、だからこそ、自分にとって本当に必要なことが見えてくる。急かされることがなくなって、時間の使い方も変わりました。」

その一つに本の読み方がある。東京では、通勤中の隙間時間で電子書籍を読んでいたが、今はもっぱら紙の本を家で読むようになった。

「地元の図書館で、館長さんとも仲良くなり、本の感想を話しながら選ぶことが増え、つい通ってしまいますね。最近は、気になった本をリクエストしたり。そんな時間がとても気に入っています。」

 

住まいは、空き家をリフォームして、東京では手に入らない、理想の家に近づけた。五十嵐さんの家の庭には、文旦や柿、梅、柚子の木が青々と茂っている。庭の手入れの仕方や、大量に実る果実の保存方法などは、地元の人に教わることもしばしばある。人と自然の距離が近く、学ぶことは尽きない。

 

「この町では、住民の方から頼まれるアドバイザー的な仕事もいくつかあります。でもその場合には、お金ではなく、かわりに、美味しいカツオをいただいたり、畑でとれた野菜をもらったりすることも多いです。そうして、人との繋がりが自然と増えていくのが何より嬉しいですね。」

五十嵐さんにとって、ここでの暮らしは「引退」ではない。キャリアの先にある暮らしの余白を、少しずつアップデートしながら楽しんでいる。

 

インタビュー&写真&文章 鈴木弥也子